たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~

初恋の相手であり、婚約者でもある惟のことが誰よりも好きなのは間違いない。彼以外の相手を考えるということが彼女にできるはずもない。だからこそ、アンジーからの突然ともいえる告白と行動に頭が真っ白になってしまっていたのだ。


あの時、電話が鳴ってくれて助かった。


それが今の彼女の本音だろう。あれがなければ、アンジーの腕からは逃げられなかっただろう。そんなことになっていたら、惟に顔向けできない。そんなことを亜紀は思っている。

だが、今の彼女の首筋にはっきりと残っている痕。アンジーがつけたキスマークの存在が、亜紀にとっては重いものになっている。

それだけではない。ラ・メールの店先にやって来た時の惟の姿。あの時、彼の隣にいた女性には見覚えがある。たしか、彼女はファエロアのショップにいた人。スラリとした姿は間違いなく彼の隣が似合っていた。

そう思う彼女は胸が痛くなるのを抑えることができない。もっとも、恋愛経験値が0の彼女にはこれが嫉妬だということも分かっていない。ただ、彼の顔を見たくないという思いだけで会うことを拒絶した。今の亜紀はいろいろなことが重なりすぎて、泣くことしかできなくなっている。

どうやって、屋敷に帰って来たのか分かっていない。それでも、気がつけば自分の部屋にいる。雅弥が心配しているのは分かっているが、今は誰にも会いたくない。そう告げるように固く閉ざされた部屋の扉。その部屋の中で、彼女は大粒の涙をポロポロ流すだけ。その時、遠慮がちに叩かれるノックの音と、彼女の名を呼ぶ声がする。



「亜紀? いるんでしょう? 扉を開けて、顔を見せて」