「亜紀ちゃん、そう思うなら惟のこと諦める?」


「グラントさん?」


「うん、きっと、その方がいいと思うよ。だって、今の亜紀ちゃんの顔、いつもとまるで違う。不安そうで泣きだしそうな顔。亜紀ちゃんにはそんな顔、似合わない。いつだって、亜紀ちゃんは笑っていた方がいい」



アンジーのその声に亜紀は思わず下を向いてしまっている。そんな彼女の顎をグイッと持ち上げたアンジーは彼女の目をじっとみつめている。



「亜紀ちゃん、真剣に考えてみて。本当に今のままでいいの? 今のままで惟と幸せになれると思ってるの?」



アンジーの問いかけの声は鋭く、亜紀の心を確実にえぐっていく。今の彼女の脳裏に浮かんでいるのが、先ほどの惟の姿であることは間違いない。


どうして、彼が他の女性といたのを見て胸が痛くなったのか。


あの時、あの場から逃げ出したくなったのはどうしてなのか。


亜紀はこの感情が嫉妬だということに気がついていない。彼女は、彼が自分以外の女性に手を伸ばし、一緒にいたことにモヤモヤしたものを感じているだけ。

もっとも、あのまま彼と顔を合わせれば間違いなくそのことを非難しただろう。そして、それを告げた時の彼の反応が怖い。だからこそ、その場を逃げ出した。

そのことに軽い罪悪感も覚えているのだろう。今の彼女の心は千路に乱れているといってもいい。
そんな時、アンジーから囁かれた言葉。それは間違いなく彼女の心の中に広がっていく。