亜紀の言葉の意味がアンジーには分からない。だからこそ、キョトンとした顔で問い直す。そんな彼に、亜紀は思っていることを話すことしかできないようだった。



「だって、あの人と比べたら、私って子供です。あんなにスタイルもよくないし、大人っていう雰囲気もない。私、あの時の惟を見て思ったんです。私なんかより、もっと惟には相応しい人がいるんじゃないかなって」


「亜紀ちゃん……」



それは違う。惟が見ているのは亜紀だけだ。


そうハッキリと彼女に教えればいい。そうすれば、亜紀が先ほどの光景を不安に思うことはない。

簡単なことではないか。たった一言、『そうじゃない』と告げればいい。それなのに、この5文字がどうしてもアンジーの口からは出てこない。

これは、彼自身の心が揺れているからなのは間違いない。

このまま、亜紀が惟に対して不安を抱き続ける。そうすれば、彼女は自分を見てくれるのではないだろうか。いや、それどころか惟ではなく自分を選んでくれるのではないだろうか。そんな思いがアンジーの中で生まれ始めている。

今の彼女の精神状態は間違いなく不安定になっている。この状態の彼女を支えるのが惟の役目であるのは間違いない。だが、今のアンジーはその役目を奪いたいという思いに駆られている。

もし、自分が彼女のことを支えられたら。惟の行動を不安に思う彼女を安心させられることができれば。彼の中で少しずつ大きくなっていくそんな思い。だからなのだろうか。彼の口からは、それまで考えもしなかった言葉が飛び出してくる。