その声にマスターは『では、遠慮なく』と笑いながら応えている。それを見ていた亜紀は、本当にいいのだろうかという表情しか浮かべられない。そんな彼女にマスターは『気にしないように』というように二コリと笑いかける。
その顔をみて、ようやく表情が緩んでいく亜紀。それを見ていた雅弥は、彼女と由紀子を促すように店内を足早に後にする。もっとも、その際に崩れ落ちている千影に嫌味を言うことも忘れてはいない。
もっとも、それが聞こえているのは言われた本人だけ。そして、囁かれた言葉から彼女は自分が喧嘩を売ってはいけない相手を敵にしたのだと勘付いている。
だが、そのことを認めるわけにはいかない。彼女はボロボロになったプライドをかき集めると、何事もなかったような顔でラ・メールを後にすることしかできなかった。
◇◆◇◆◇
「認められないわ……どうして、あんな子が……ただ、一條っていう家の名前があるだけじゃない。それなのに、どうして誰もがあんな子供に夢中になるのよ……」
ぼんやりとした調子で、そう呟いている千影。それでも体が覚えているのは間違いない。真っ直ぐにファエロアのショップへと足は進んでいる。やがて、スタッフ専用の裏口から入った彼女は、店内がざわついていることに気がついていた。
ひょっとして彼女が留守にしている間にお得意様がやってきたのだろうか。だとしたら、自分が不在にしていたのは失態にあたる。そう思った彼女は手早く髪を整えると、にこやかな笑顔を貼りつけて店内に入っていた。
その顔をみて、ようやく表情が緩んでいく亜紀。それを見ていた雅弥は、彼女と由紀子を促すように店内を足早に後にする。もっとも、その際に崩れ落ちている千影に嫌味を言うことも忘れてはいない。
もっとも、それが聞こえているのは言われた本人だけ。そして、囁かれた言葉から彼女は自分が喧嘩を売ってはいけない相手を敵にしたのだと勘付いている。
だが、そのことを認めるわけにはいかない。彼女はボロボロになったプライドをかき集めると、何事もなかったような顔でラ・メールを後にすることしかできなかった。
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「認められないわ……どうして、あんな子が……ただ、一條っていう家の名前があるだけじゃない。それなのに、どうして誰もがあんな子供に夢中になるのよ……」
ぼんやりとした調子で、そう呟いている千影。それでも体が覚えているのは間違いない。真っ直ぐにファエロアのショップへと足は進んでいる。やがて、スタッフ専用の裏口から入った彼女は、店内がざわついていることに気がついていた。
ひょっとして彼女が留守にしている間にお得意様がやってきたのだろうか。だとしたら、自分が不在にしていたのは失態にあたる。そう思った彼女は手早く髪を整えると、にこやかな笑顔を貼りつけて店内に入っていた。


