そんな彼の心を占めるものはただ一つ。 (…えくぼに会いたい) 自分の帰りをこの城のなかで待っているであろう最愛の妻のことである。 岩城氏の館にいる間も会いたくて仕方なかった。 奥州一美しいと謳われる彼女は晴宗の大切な宝物。 文字通り目に入れても痛くないほどに溺愛している。 彼女に会えるならばどんな疲れも一気に吹き飛ぶほどだ。 (帰ったら一緒に茶でも飲もう) いいお茶請けはあるだろうかとこれからの時間に胸を躍らせる晴宗。 だがしかし、この日だけは少しだけわけが違った。