すると、
「あの…」
後ろから遠慮がちな声が聞こえてきた。
「…はい?」
見たことがないけれど。
この人は誰だろう。
小首を傾げると、またまた遠慮がちにその女性は自己紹介を始めた。
「…弥生亜希子。営業部から本日付けで企画部Cに移動になりました。よろしくお願いします」
茶色より少し金に近い髪色に、濃いめメークという派手な見た目に似合わない丁寧な口調で彼女は言う。
……いけないわ。人を見た目で判断してはいけないわね。
派手な見た目イコールチャラチャラしてる。
そう連想をするのは私がオバサンになったからだろうか。なんて。
まだ二十代の私に苦笑する。
「こちらこそ、よろしくね。私は企画部Cの部長よ。そして、こちらがアドバイザーの名刈さん。一応ここでは一番偉いのだけど…」
「よろしくね」
「よろしくお願いします…」
名刈さんのイケメンスマイルに俯く弥生ちゃん。
思わず名刈さんを睨んだ。
弥生ちゃん、困ってるじゃないのよ。
「それから、沢田羚生くん。今年入った新入社員なの」
「よろしく」
「……はい…」
そう挨拶をする二人は、どこかよそよそしかった。何だろ、この二人。
うん……。
まぁ、いいわ。気のせいね。
気にしてもしょうがないと思い、考えるのを止めた。
それよりも。
「まだここに移動されてくる人っているんですか?」
これは、名刈さんに宛てた疑問である。
「まあね。男の事務員なんだけど。そろそろ来るんじゃあないかな」
そんな話をしていた矢先だ。
扉はカチャリと開いた。