暗がりの中、俺は道に迷っていた。道行く人に尋ねようにも、誰一人として振り向いてくれない。

 しばらく、出口の見えない袋小路の中をさ迷っていると、視界が灰色に染まりだした。

 ______ああ、やめてくれ、あんな退屈な世界はもうたくさんだ……。




「……」

 鉛の様に重たい瞼を薄く開く。悪夢には慣れたが、このうなされた後の辛さにはなかなかなれない。

 PTSD、それが俺の病気の総称だった。薬を飲まなくてはまともに寝る事すらままならず、こうして薬なしで無理やり寝ようものなら、決まって悪夢を見る。

「難儀なものだな、ほんとに」

 もう何度も繰り返してきた事だから、今更どうしようとも思わない。

 この病気は治らないのだと、割り切っているのだ。

「よっ、と」 

 なんとか身体をおこし、一つ伸びをしてから、朝食に取り掛かることにした。

 ______乾パンとミネラルウォーター、それからドラッグストアの残骸から見つけたサプリを数粒。この味気のない品が、最近の朝食だった。

「ほら、お前らも食え」

 猫用の缶詰を開けてやり、比較的きれいな床に落としてやる。そこまで気を使わなくても猫なら大丈夫かと思ったが、大切な同居人にはそれなりの配慮を配ることにしていた。
  

 「さて、水やりにいくかな……」

 自分でも語尾が小さくなっていくのが分かった。理由は簡単である、やはり花が育たないのだ。

 一週間前に植えた種が芽を出して少し育ったまではよかった。しかし、そこからつぼみが出来たあたりで、萎れてしまったのだ。