小一時間に及ぶ探索の末、缶詰と未開封のペットボトル、それから"同居人"への贈り物を見つけた。

 それらを袋に詰め、いざ来た道を帰ろうとした時、視界に入り込んできた意外な物が目に入った。

「花の種、か」

 いくつかの鉢と、数種類の花の種が入った袋が散らかっている。それからシャベルや肥料などの園芸用品が並んだ小さなコーナーが、奇跡的に倒れることなく置いてあった。

「なつかしいな……」 

 昔は花をよく育てていたのだが、とあるきっかけで見たくなくなってしまった。

 特に赤い花はあまり見たくない。あまり思い出したくない記憶が蘇ってくるのだ。

 だが、同時にこの灰色な世界で再び色とりどりの花を咲かせてみたい、とも思った。

 過去と現実の間を悶々と考えた末に、赤い花以外ならと割り切り、適当に使えるものを袋に入れて、種の袋はポケットに大事にしまった。

「はい、お会計」

 壊れたレジの中に灰色に汚れた紙幣を投げ込み、来た時より重くなった袋を引きずって帰路に就いたのだった。


 ______屋根がついた車一台分のガレージ、その中に、落ちていたベットやら机を運び込んだスペース。それがここ三週間の我が家だった。

「ただいま、"シャノ"ステラ"ミケ"」

 出入り用のドアとして使っている二枚のトタン板をずらしながら、同居人の名前を呼ぶ。

 すると奥から美少女が……なんてことを思う日もあるが、現実は三匹の猫たちである。

 真っ黒な雌猫が"シャノ"。黒い毛の中に星形の白い毛の塊があるのが"ステラ"。灰色に汚れているが、唯一三毛猫の"ミケ"。三匹とも野良猫だったが、寂しくなったので拾ってきた。

 因みに名付けたのは俺である。我ながら名前のセンスはなかなかではないかと自負していた。

「お前らにお土産があるからな」

 そういいながら、すり寄ってくる猫たちにカリカリの猫餌を別々のお椀に入れてやった。

 一応縄張り意識がある様で、自分のお椀でしか食べないのである。

「仲良くな……」

 じゃれ合いながら食べている猫たちをしり目に、もう一度灰色の世界へ出ていく。