片手で縄を切りながら、もう片方の腕で拳銃を構えて周囲に気を配る。そんな時

「おい、銃は撃つんじゃねぇぞ、奴らにばれちまうからな」

 妙に低く尖った声が、建物と建物の間から聞こえてきた。

「誰だ!」

 すぐさまそっちに拳銃を向けると、線の細くひょろりと大きな白人とも日本人とも取れる茶髪の男が、こちらよりも大きな拳銃を片手に立っていた。

「名乗りたいのはやまやまなんだがね、まずお前は銃を下ろせ。ほら、こっちも手を挙げてるだろ」

 確かに男は両手を挙げて銃も下に置いている。

「……妙な動きしたら撃つ」

 そういって、こちらも銃を下ろした。

「さぁ! 答えてくれ、あんたは何者だ!」

 精一杯目を鋭くして問う。スノウはさっきから置いてけぼりを食らってそわそわしているが、不思議と怖がってはいない様だった。

 そして、男はこれでもかとためた後、フッと笑いながら答えた。

「天才さ」

 自らを天才と語った茶髪の男は、白人と日本人のハーフで、『デュセル・ロッソ』と名乗った。

「ここは何かとあぶねぇ。それに立ち話じゃ長い話はできねぇからな。ついてこい」

 まるでこちらの意向は全く無視するかのような鋭い口調でそういうと、デュセルは振り返って建物の間を歩いて行った。

「……っあ! おい!」

 急いで追いかけようとしたが、足に縄が絡まったままなので動けない。それに、スノウの足首までも縄が絡まっているので、とにかく呼び止めることにした。

「この縄、あんたが仕掛けた罠かなんかだろ、だったらほどいてくれ。よくわかんないけど一回引っかかっただけなのにいくら引っ張っても取れないんだ」

 今の立場的に考えて、出来うる限り下手に出た方がいいだろう。語尾を弱めて叫ぶ。すると

「ほらよ、ほどけたぞ。とっとと歩け」

 目にもとまらぬ速さで腰に差してあった消音機能付きの拳銃を取り出し、一瞬で周りの縄を撃ちぬいた。