真昼を告げるベルが鳴る中、眼前に広がる光景に対し、言葉の一つも出なかった。

「~~」

 あの化け物が落ちた穴の前で跪くスノウ。その両手は顔の前で静かに握られている。そして、聞いたことのない言葉で歌を歌っているのだ。

 いや、これだけならば驚かないだろうし、スノウの記憶に何か進展があったのではないかと、むしろ喜んでいただろう……"あれ"が無ければ。

 "あれ"とは、スノウが静かに歌いかけていた穴から湧き上がってきた"光の粒"のことだ。それはまるで、昔家族で旅行した時に見た、視界いっぱいに広がる真っ白な雪に色鮮やかなライトが当てられた時の様で、

「綺麗だな……」

 思わず持っていた荷物をドサッ、と落としてしまうほどに魅力的な輝きを持った光の粒たちが、今度は自分とスノウの周りを包み込んだ。

「いつもなら、身構えるところなんだけど……今回は別だな」

 肩をすかしてそう言うと、ふとスノウの事が心配になった。この光の渦は徐々に空へ向かっている様なので、あるわけがないが、もしかしたらスノウも光と共に消えてしまうのではないか、と思ったのだ。

「スノウ!!」

 あるわけないあるわけない……と分かってるつもりでも、なぜかスノウが居なくなってしまう事を考えてだけで、胸に針を刺されたような、切なく甘い痛みが全身に走るのだ。

「どう、したの?」

 こちらの声が届いたのか、スノウが返事をする。近くに居ることが分かると、とてつもない疲労感と達成感が湧き上がってきた。

「無事でよかった……」

 むずかゆい感情に戸惑いながらも、光をかき分けスノウを見ると、言葉を失った……その神々しさに。

 光の粒はスノウの周りを円を描くようにキラキラと飛んでいて、スノウの背中には、光の粒が集まって、大きな羽の様に見える。

「天使」

 ふいに漏らした言葉はきっと、今のスノウを一番よく表していると思えた。

 なぜこんなことになったのか、思い返してみると、なんとなく予兆はあったのだ。そう、今朝から……