「分かった。俺はしばらく外にいるから、着替えたら呼んでくれ」

 そういって外に出る。もちろん覗く気などない。

「ふぅ……」

 雨の当たらないガレージの横、廃墟の影で時間が過ぎるのを待つことにして、腰を落ち着かせる。

「普通の…俺と同じ年代の奴なら、興奮するんだろうか? 」

 ふと、思ったことを口に出してみる。そうでもしないと、自分が何を思っているのか分からなくなる時があるからだ。

「スノウはどこに居ても美少女に数えられる様な奴だ。そんな奴と二人で暮らしているだけで、普通ならばおかしくなっているのだろうか? 」

 俺の思う普通を口に出してみる。だが、俺にはあまり分からない。

「……なくしちまったもんな、感情」

 ポツリ、雨が降りやむのと同時に呟く。少しずついつもの灰色の町が見えてくる。

 俺の感情は欠落している。PTSDの症状の一つかもしれないが、とにかくいくつかの感情がほとんど消え果ているのだ。

 "性欲""恐怖"この二つはほぼ完全に消え果、他の感情も、徐々に薄れてきている。すべてはあの悪夢のせいだ。

 だが、悪い事だけではない。それは、この灰色の町の中でも、いつだって感情を捨てて冷静に物事を考えられる力があるからだ。

「もう、いいけどな」

 ため息はつかず、スノウの元へと戻ることにした。