------一人で歩いていた灰色の街中を、スノウと一緒に歩くだけでこんなにも気持ちが楽になるとは思ってもみなかった。

「あれ、なに? 」

「あれか? あれは車っていう乗り物だな」

 というのも、会話が出来ること事態がうれしいというのに、色々な事を質問してくる仕草が、なんというか……可愛いのだ。

「じゃあ、あれは何? 」

 そういってスノウが指差した方には、意外な物が落ちていた。

「拳銃……それと使いかけの弾薬ケース? 」

 そこには日本警察が所持している回転式の拳銃が一丁と、恐らくそれに詰めるための弾薬が三十発ほど入ったケースが、投げ捨てられるように落ちていた。

「拳、銃? 」

 スノウがクエスチョンマークを浮かべながら手を伸ばしてくるが、暴発でもしたらしゃれにならんので渡さない。

 だが、スノウはずいぶん不満そうな顔を浮かべている。説明が必要だろう。

「えっとな、こいつはすごく危ない物なんだ。本当は俺が持ってることもいけないんだけどな。とにかくこいつは俺が預かっておく」

 拳銃とケースを袋の中に慎重に入れようとしたとき、まだ不満顔のスノウに気づく。

 しかし、何が不満なのだろう?

 最近妙に冷静に物事を考えられる頭で考えてみると、一つの結論が出た。

「……わかったわかった、どんなものなのかみせてやるから」

 そういうと、スノウの顔がパァッと明るくなった。まったく、手のかかるが可愛い奴である。

 そして、見せると言ったからには、何かを撃って壊さなくてはならない。

「あれでいいか」

 視界の先、今から向かおうとしていた、大きな花屋の残骸の前に転がっているガラスの花瓶があった。

 あれを粉々にして見せれば、危険な事も分かってくれるだろう。

「あの花瓶を見とけよ」

 腰を落としながらスノウに向けて言う。当の本人は何が起こるのか楽しみといった様子だった。

 ……とは言っても、拳銃の扱い方などドラマや映画で見たことくらいしか知らない。

 とりあえず低い姿勢で、トリガーを引き、狙って撃つ。これだけに専念することにして、一発撃ってみたが。

「ッッ!! 」

「キャッ! 」

 反動に耐えきれず倒れてしまった俺と、銃声にびっくりして尻餅をついたスノウ。

 二人して盛大に転んだ姿に、自然と笑いがこみ上げてきた。

「はは……まぁ、これでわかったろ? 」

 未だ周囲を警戒しているスノウに言ってやった。

「危ないってことが」




 ______その後は、目的だった花屋の中で、なんとか使えそうな鉢やら種を集めて、帰路に就いたのだった。



「ん? 」

 帰る途中、空を見上げると、真っ黒な雲が外に見えた。

「嵐になるな……」

 謎の灰色の雲も、雨風や雷は通すのだ。

「トタン板が飛ばなきゃいいが……」

 何かしら重りを置いて対処するか…などと考えていると、スノウの顔が強張っていることに気づく。

「どうした? 」

 聞くと、ハッとしたようにこちらを見るスノウ。だが、その目は泳いでいる。

「なんでも、ないよ」

 えへへ、と笑い歩いていく。訝しげな視線を向けるが、スノウは気づかない。

「まぁ、どうせ何もないよな」

 荷物を引きずり、歩いていく。

 ……何か、奇妙な臭いがした気がするが、気のせいだろう。