すると片桐はおもむろに立ち上がった。


「アイツに一言いってくるわ」

「アイツ?…って、片桐?!えっ、ちょっと待って!」

麻衣の制止も聞かずスタスタ玄関に歩いていく。
廊下を滑るようにして片桐の洋服の裾を掴んでドアを開ける前に引き留めた。


「莉奈さんって人はっ…カイトにとって、特別な人なのよ…だから…」


「莉奈…来てんのか、あの人」
片桐はぼそっと言って溜息を付くと、麻衣が掴んでいた手をそっと下ろした。
片桐は知ってるんだ、そう感じたときいつの日にか言われた言葉を思い出した。


「やっぱり大切な人なんだ。…だから、私にやめとけって言ってくれたんだね」


「………」

「ありがとう、片桐。ちゃんと好きになる前で良かったよ。だからほんと、気にしないで」





「……じゃあ、俺のことちゃんと見てくんない?」


「え?」


「カイトのこと、好きじゃないんだろ?」

片桐は手を離してくれない。
動揺して後ずさりする体、狭い廊下じゃすぐ背中に壁だ。


「か、片桐っ…なにいきなり…」

「…………」



風邪のせい?
それとも、片桐のせい?

熱にうかされてクラクラする。
思考回路が働かない。


.