「そうだな」
香ばしいコーヒーの香りが鼻を掠める。
龍之介の横顔はすっと白くて、綺麗で繊細で、思わず麻衣は緊張してしまう。


「で、カイトに言った。俺たち付き合ってるって」

「あ、うん…」

「ダメだった?」

「え?だ、ダメじゃないよ。言おうと思ってたし。言わないと…」

「言わないと?アンタの気持ちにけじめがつかないって?」

「…そ、そうゆうことじゃない」

「諦めがつかないから?俺に悪いとか思ってたり」

「なに…片桐、どうしてそうゆうこと言うの」




龍之介は問いつめた麻衣の顔を見ると、苦い顔を浮かべそれからすっと目を逸らした。


「ごめん、俺…」

「………」

「自分が思ってるより…嫉妬深い」

「片桐…」


「カイトが会いに行ったって聞いて、なんで俺より先に会うんだよって思った。別にクリスマスイヴなんて、大切な日だって思ってなかったのに」


龍之介はコーヒーの缶をそっと置くと、麻衣の体を抱き寄せた。
ひどく冷え切った体が、顔が首元に触れる。
ふんわりとコーヒーの匂いが鼻を掠めた。




「数分でも数秒でも、何がなんでも、今日会いたいって思った」





低い声が吐息と一緒に耳に届いた。
火のついたように火照る頬。


きっと埋めた
片桐の胸に伝わっているかもしれない


伝えよう


伝えなきゃ





「片桐…」





淡く脆かった気持ちがちゃんと形になっているって今は分かるから





「…私も、本当はすごく会いたかった」




見つめあう視線があまりにも近くて、眩暈しそう。
少しだけ照れてる片桐とおでこをくっつける。





そうか、今日は特別な日なんだ



自分たちが幼くて、あまりにも不器用だから
それはお互いに知っていて、
それでも素直になれなくて
でも今日という日は、

それを自然に許してくれている






「んっ」

見つめ合って、ゆっくり重なったキスは今までで一番冷たいのに溶けそうなほど甘かった。