それから麻衣は部屋に帰って、ベットに潜り込んだ。
改めての現実を胸に。
指には貼っても目立たないタイプの透明なテープの絆創膏、擦りむいた膝には絆創膏と打った所に湿布。
痛々しい傷はあっても、不思議と気持ちのキズは記憶とともに薄く掠れている。






片桐はちゃんと起きて仕事に行けるかな…


改めて助けてくれたことお礼しなくちゃ…







それから数時間後のことだった。
片桐から着信があって、電話を取ると…





「もしもし」


『もしもしじゃないっつーの。勝手に居なくなってんじゃねぇよ心配するだろ』


お怒り気味の片桐…バタバタ、ガサガサと音を立てながら忙しない様子が電話越しに分かる。
きっとぎりぎりに起きたんだろうと思った。


「だって、片桐寝てるし居座ってるのも悪いかなって思って」

『居座ったっていいだろ…だって』

「…………」


すると片桐はハーとため息を付いた
そして諭すように低い声が耳に届く



『ゆっとくけど、昨日のこと冗談じゃないからな。夢でもなければ、嘘でもない。あんたは…俺が守る。だからさ、信じれないとか言うなよ』


「うん…」


『だから、あんたも…ちゃんと俺を見て』






“俺を見て”

男の人にそう言われたのは初めてだった。
今まで好きになった人や彼氏は全て自分から追いかけていった。
いつも、いつも追いついてはまた少し離れては追いかける。
愛されるより、愛してることが当たり前だった。
なんだか痒くてぎこちない。
その空気が伝わったのか、片桐はあーー!って電話越しに叫んだ。


「な、なに?!」


『いや、なんか…すげー恥ずかしいこと言った気がする…』



そのあと、慣れてないんだよって小さく呟いた声も全部聞こえた。

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