唇を近づけられ、あたしは息をのんだ。
「お…」
「お?」
言いたいのに、喋るだけでも唇が触れてしまいそうで、震える。
あたしは口に力を入れるようにして、最低限の動きで声を出した。
「おばさんに頼まれて…」
「うちの母さん?」
望が驚いた声を出して、体を後ろに引いた。
離れた顔にホッとする。
「最近、望が怪しいから彼女いないか探ってくれって」
そう言うなり、望は「はあ~」と息をつきながらしゃがみ込んだ。
俯いていて、その表情はわからない。
「望?」
声をかけると、望は顔をあげた。
あたしを真っ直ぐに見る。
「彼女なんていないから」



