「ねぇねぇ、今日の昼飯は?」


数学を少し教えてもらい、お弁当の入った袋を取り出すと、海翔が身を捩って近づいてきた。



「…いつも通りだけど」


お弁当を取り出しながら海翔から少し離れると、海翔はまた近づいてくる。


「俺のぶんは?」

「ねぇーよ」


えぇー、と文句を言う海翔。
いやいやいや、私達夫婦でも何でもないんですけど。



「ちぇー、じゃあ購買行こうかな」


「え?もう完売してるんじゃない?
こんな時間だし」

うちの学校は何故か購買頼りの生徒が多い。

そのため、昼休み開始から30分で購買の品はほぼ完売。

今日の海翔の30分は私がバッチリ頂いた。


「え?俺、昼飯ないの?」

「そうなるね」

海翔の顔はどんどん青ざめていく。

ろくに授業出てないくせに、お腹なんか減らないだろ。


「…しょうがないなぁ。

私の半分あげる」


「…え、でも悪いし」


あんなに物欲しげな目で訴えてきたくせに。


「いいって。30分、数学教えてもらったし」

「…さんきゅ!!」


いつの間にか割り箸を装備している海翔は今にも涎が出そうな表情で卵焼きに手を付けた。






「…おいしい?」


「あぁ!!これ、彩葉の母さんがつくったの?」


「ううん。私が作った」


すると海翔は、


「すげぇ!!」


の一言。


「…全然すごくなんかないよ。

あんたの方が料理も家事もできるっしょ」

「え?そんなことねぇよ」


口元にご飯粒を付けて首を傾げる海翔。


こんなガキで不良の“ふり”をしている彼だが、四人の弟、妹のめんどうを忙しい母に代わってしているイイヤツ。


お父さんは離婚していないらしい。

…だから、私はこいつに比べたら全然すごくなんかない。


性格も容姿も度胸も、

全部こいつに勝てない。