「彩葉ーっ!!」
ぎゅ、と後ろからふいに抱きつかれる。
「離してくれるかな、海翔くん」
「…ん」
素直にパッと手を離す海翔。
海翔“くん”だなんて。我ながら笑っちゃう。
「屋上行こう」
「いいよ」
海翔の一言で私達は今日も屋上へ。
「んー、ちょっとさみぃな」
もう冬だというのにブレザーを着ていない海翔。
そりゃ、寒いに決まってる。
「海翔、労かで急に抱きつくなって言ってるよね?」
「えー、海翔“くん”じゃ、ねぇの?」
ニヤリと意地悪に笑う海翔。
図星を突かれたようにドキン、と胸が高鳴った。
「…そうやって脅す気?」
「別にー?」
屋上のベンチに腰かけるとひんやりと冷たかった。
元々立ち入り禁止の屋上だが、海翔が蹴破ったらしい。
「…で?今日は何?」
「…んー、数学」
海翔は“ドアを蹴破るほどの”不良。
本人は、
『俺、見た目とかで何にもしなくても最初っから不良扱いされんのね?
だから高校入ってからは不良になってやろうと思ってさー!』
と、言っていた
そんな、不良“なりきり”中の彼は頭が良い。
都内で一番頭の良い、高校の特待を受けたところ受かったらしい。
何故そこへ進まなかったのか、と聞くと
『え?だってそこ私立だったんだよねー。
俺んちそんな金ないしさー。
それに校則厳しかったら不良ごっこ出来ないし』
と、答えられた。
なんとも反応に困る答えだったのは確かだ。
あんな天才高校に、“不良ごっこ”がしたいからという理由で入らないなんて…。
しかも特待だからお金は要らないはずなんだが。
それに“不良”になりきるなら校則なんて気にするもんじゃないと思う。
「…海翔」
「んー、なにー?」
ペラペラと数学のテキストのページを捲る海翔の視線はこちらに向いてはいない。
「不良のくせにピアス1個としてないね」
この学校はバカばっかりな公立高校。
校則ゆるゆる。あっても皆守らない。
そんな学校。
だけど海翔はピアスやイヤリングもしていない。
「え?金もったいないもん。
それに痛いんだろ?ピアス」
「…うん」
これが彼の言う、“不良”らしい。


