「……なだからね、私ギリギリだったの。……姫ちゃん?」
夢が不思議そうな目を私に向ける。
「…っえ?あ、あーごめん。考え事してた」
「今日初めて会ったから…失礼だとは思うけど…」
夢は私の方をクルっと向いて、心配そうに言った。
「姫ちゃんて…よくボーっとしてるよねっ」
私は、少し身構えていたのもあり、本気でズっこけた。
「――…いった――……」
「ほらぁ言ってるそばから…大丈夫?」
大丈夫じゃない。
夢の言葉は本当に掴みどころがなくて、恐ろしい。
「ごめん…手、いい?」
「はいはい」
長い、綺麗な手が私に差し出された。
私が掴むと、夢はわざと重そうに持ち上げる。
「おっも――」
「…ヒドイ……」
「あっはっは…冗談だってぇ……」
私のショックを受ける顔がよほど酷かったのか、それからしばらく夢の笑いが収まることは無かった。
普通の私なら、どうしていいか分からず不安だっただろうが、その時の私は逆に安心していた。
遠くに、鋭い視線を感じていたからである。

