振り向きもせず去る背中が嫌だった。
何もいわず、
ガチャンと切る電話が悲しかった。
僕の彼女はとてもわがままで、気分屋だ。
振り回されてばかりの毎日。
機嫌が悪いときに電話をすれば、
ヒステリックに叫ばれる。
メールをすれば、罵詈雑言が送られてくる。
今思えば、彼女は心を病んでいたのかもしれない。
けれど、僕は彼女の笑顔に惚れていた。
どんなに理不尽でも
僕が彼女を嫌いになることはなかった。
僕は彼女の笑顔がたくさん見たいのに、
僕に見せるのは怒った顔や、怯えた顔ばかり。
いろんなものをプレゼントして、
思い出にと写真もたくさん撮ったのに
僕がそういうことをすればするほど、
彼女の癪にさわるようだった。
僕はあの夜、どうしても彼女に会いたかった。
顔を見たかった。
笑ってほしかった。
だって、僕の誕生日だったんだ。
おめでとう!
そんな言葉を期待して、僕は彼女に会いに行く。
彼女の部屋は明かりがついていた。
テレビの明かりがカーテン越しに見える。
僕は願った。
何日も前から繋がらない携帯と、
返事のないメール。
僕は祈った。
明かりの漏れるその部屋から
少しでもいい、顔をのぞかせてくれないか、と。
願いはむなしく彼女が窓に近づく気配はない。
僕は屈んで、道に落ちている小石を手に取った。
ドラマやマンガであるように、
窓を小石でならせば気づいてくれるかもしれない。
投げた。
1個、2個、3個、4個めの小石を
手に取ろうとしたとき、彼女が顔をのぞかせた。
僕をその視界にとらえた途端、
彼女は目を見開いた。
口許を手でおおっている。
突然のことに驚いて、このドラマのような展開に
感動しているのかもしれない。
僕が彼女に手を振れば、
急いで部屋に戻る彼女。
そんなに慌てなくても、僕はここにいるのに。
彼女はきっと階段を慌てて降りてくるだろう。
どうしてここに?と聞かれるかもしれない。
そうしたら、会いたかったから、と答えるんだ。
そうしたら、僕の見たい笑顔を
見せてくれるかもしれない。
胸を踊らせて僕は待つ。
彼女は素直じゃないから、
僕が折れてあげないと。
喧嘩別れなんて最悪だ。
「すみません、ちょっとお話いいですか」
背中から聞こえた固い声に、驚いた。
けれど僕は彼女を待たなきゃ。
「すいません、彼女と待ち合わせしてるので」
「ストーカーが家まで押し掛けてきた、
と通報があったのですが」
「違いますよ。僕じゃありません。
あっ、きたきた!」
小走りで駆け寄ってくる彼女に、
僕は小さく手を振る。
けれど、彼女は僕の横を通りすぎた。
「その人です」
え?
「私が通報しました」
「間違いありません」
「たすけてください」
震えた声でそう言う彼女は
僕ではなく、警察にすがった。
「違います違います違います違います!
僕と彼女は付き合ってる!付き合ってる!
愛し合ってる!」
押さえつけられ
車に無理矢理乗せられながら僕は叫んだ。
「僕は彼女を愛してる。
彼女も僕を愛してるのに素直じゃないだけだ。
そういうのは、言われなくてもわかるだろう?
彼女は僕を愛してる!」
―――――…‥
「これは、確かな証拠だな」
「ああ、壁一面にべったりだ。」
「でも、あいつ精神異常者なんだろ?」
「そうそう。だからきっと刑は逃れる」
「被害者の子が可哀想だな…」
end
