"愛しているわ"
そう言ったくせに、彼女は手を振る。
"貴方の無愛想なところが好きよ"
そう言ったくせに、彼女は微笑む。
"不器用な手つきが可愛いわ"
そう言ったくせに、彼女は去っていく。
僕は、彼女の幸せを祝福するべきである。
この世でたった一人の彼女のために。
"ごつごつした腕が好きよ"
"柔らかい髪の毛が好きよ"
"他人を写さない冷たい目が好きよ"
"あたしを拒絶しないあなたが好きよ"
彼女の言葉は、僕を縛り続けるだろう。
小さな教会。
今、目の前にいる彼女は
今までずっと一緒にいて、
見てきた中のどんな顔よりも眩しい笑顔だ。
僕と目が合っても誇らしげに笑って見せる。
その指に光る指輪は目に痛いくらい眩しくて、
その純白の衣服は胸が痛いくらい美しくて、
花に包まれて歩く姿は幸福そうだ。
その隣を、僕が腕を組んで歩けたなら。
ベールをとり口付けるのが僕の役目だったなら。
細い手をとり、指輪を嵌めることが出来たなら。
どれもこれも、叶いはしない。
彼女は僕の姉さんだ。
彼女は僕の、姉さんだ。
神様、僕はいつかこんな日がくること、
ちゃんと知っていました。
どんなに思っても、
どんなに仲良く暮らしても、
時が来れば、別の男にかっさらわれる。
僕はずっとずっと姉が欲しかった。
姉にも僕を望んでほしかった。
けれど、姉さん。
僕はいつかの幼い日に戻り、
また姉さんに恋するかどうかを選べるとしても
姉さんに恋をしなかった日々を送る方は選ばない。
僕の全部が姉さんだ。
まだ一度も伝えたことなかったけれど、
伝える勇気がなかったけれど、
僕は言える男になりたい。
「姉さん!
結婚おめでとう!」
彼女が泣きそうな顔で笑うから、
大きく手を振って笑うから、
僕はこれで良かったんだとそう思えるよ。
end
