基本、毎日会社と仮住まいのアパートの往復しかしない生活スタイルだ。


何処かに遊びに行く暇なんかあったら仕事をして、1日でも、1時間でも、1分でも早く詩織のところに帰りたい。

だから、アパートの近所にあるコンビニと、会社近くにある定食屋や飲食店しか知らない現状だ。


それでも困らないし、今のところそれでなに不自由なく生活できている。


そんなとき。



先日絡んできた中崎さんが、帰宅しようと会社を出た所で待ち伏せしていた。



やられた。


それが本音。


「たまには飲んで帰りません?」


シラっとそう言う彼女の顔は笑っていて。


「いや、悪いけど帰るよ。」


彼女の横を素通りする。


瞬間、腕を掴まれた。

「そんな素っ気ない態度しないで…お願い。」


眉根を寄せ切なそうに笑う中崎さん。
でも、分かるんだよ。
これは、彼女なりの男をオトすための演技。

それくらい俺にだって分かる。


「他を当たってくれ。」


少し強めに腕を振り払う。
以前の俺なら「じゃあ行こうか」となっていただろう。

今は違うんだ。


「私、諦めません!絶対に神山さんを振り向かせて見せるから‼︎」


叫ぶようにそう言って駆け寄って来た中崎さんをただ唖然と見ていた。


フワッと抱きつかれ、強引に口付けられる。


「やめっ」

「私、本気だから。」


強い眼差しが俺を見つめる。真っ直ぐな瞳。


詩織とは違うけど、彼女もまた真っ直ぐな目で俺を見ていた。


「遠くにいる彼女なんかより、近くにいる彼女の方がいいに決まってる。

…私、綺麗じゃない?可愛くない?

私を見て…」


縋りつき潤んだ瞳で俺に訴えかける彼女は、それなりに可愛くて男ならつい抱きしめてやりたくなるだろう。


だけど。


グイッと身体を押しやり右手の甲で唇を拭う。


「ハッキリ言った方が君の為になるみたいだから言うが。

いい加減にしろよ。

身体だけの関係なら他を当たれ。
誰かのものを奪うのが趣味なら、悪いが俺は詩織以外の女を欲しいとは思わない。」



一気にそう言うと、彼女の表情などお構い無しに歩き出す。


気持ち悪い。


そう感じてしまった詩織以外の女性の唇。


あぁ、最悪だ。


テンションも下がる。


怒りが湧いてきて、その感情のままに歩いて帰る。



なんで、よりによって俺なんだ。


専務も社長もみんなして、俺に結婚だ、見合いだ、付き合ってくれだと煩い。

煩いんだ!


イラつきながら歩を進めると、ふと目の前に影が出来ていて。


ハッと顔を上げた俺が見たものは…。