初詣に行こうと、重い腰をあげたのは夕方4時過ぎ。


それまでダラダラとベッドでいちゃついて過ごした。



…過去にない、あり得ないほどの甘い時間。


「わぁ、すごい人!」

「ホントにすごいな、逸れないように手を離すなよ。」


ぎゅうっと手を握るとぴったりとくっついて歩く。


そんな俺たちの前に見慣れた後ろ姿を見つけた。



「「あ」」


ふたり同時に相手に気付き、
声をかけようとして…躊躇った。



…マズイかな?



戸惑っている間に、距離が近付き否応無く相手にもこちらが見えてしまった。



「神山課長、じゃねぇや、部長!」



嬉しそうに俺を呼ぶ…伊島。


…の隣に、何故菊池?


「帰ってたんですか!水臭いじゃないですか、連絡くださいよー!なぁ、、、、あ。」



テンション高くそう言ったものの。

はたと気付いたのか、黙り込んでしまった。


「バカじゃないの。今更黙り決め込んでもバッチリ見られちゃってるんだし。お久しぶりです、神山課長。」


「お…おぉ、久しぶり。というかあけましておめでとう。あー、お前らってそういう…?」


遠回しに何と無くそれとなく聞いてみたつもり。


「どう見えます?」


菊池はふふん、と笑う。
会社で見せる真面目そうな彼女とは全く違う一面だ。


「瑞季…」

「智のことだからハッキリ言えないでしょ。ま、神山課長と同じですよ。部下に手を出す悪〜い上司。」


「痛いとこを突くなぁ。
そうなんだ、いつから?前に見たときは菊池は彼氏居ただろ?」

記憶は確かだ。
飲み会の後、迎えに来たのは彼氏だと言っていたから。


「そうです。付き合い始めたのはクリスマスから。智がどうしてもっていうから、仕方なく。」


…これって。


「略奪愛…」


詩織がぽつりとつぶやいた。
そう、正しくそれ。


「いやもう!俺たちのことはいいんですって!」

真っ赤になった伊島がとにかく話を逸らそうと必死なのが笑えてきた。


27歳で課長に抜擢したのは俺だ。
伊島は頭の回転が早い。
そして食らいついたら離れない。

リーダーシップもありムードメーカーでもある。

だから、奴なんだ。


「ま、俺は何も言わないよ。二人が決めたことだろうしな。
それより、どうだ?本社のみんな元気か?」


そう問いかけると伊島は「はい!」と元気に答えた。