仕事を一区切りして、自宅へ戻る。


10月1日に赴任して、早3ヶ月が経とうとしていた。



あの日。
別れの朝以来、詩織には会っていない。


たまに顔を見たい、触れたい、抱きたい、と思うことはあっても、早く本社に帰る為には妥協も甘えも俺には許されなかった。



おかげで、支社長に認められボーナスが以前の1.5倍でてホクホクだった。


詩織になにかプレゼントしよう。


淋しいクリスマスを過ごさせたお詫びに。

辛い思いをさせてしまったお詫びに。



何がいいか分からず悩んでも仕方ないので、本人と買い物に出て決めることにした。



空港に到着し、辺りを見回すと。



フワフワの茶色いロングヘアーが目に入った。


詩織…。



気付いたら駆け出していた。


振り向いた詩織を抱きしめる。


「詩織!」


「祐太朗さん…」


柔らかな身体の感触。
甘い匂い。
艶を含んだ声。


こんなにも愛おしい存在。


「ただいま。」
「おかえりなさいっ」



涙声の詩織。
一週間しかない休みだから、一分一秒が無駄に出来ない。


「行こう。早く二人きりになりたい。」


手を繋ぎ引っ張るようにして歩くと、クスクスという笑い声がした。

「詩織ちゃんしか見えてないー、あたしの存在は無視かー。」


その声は、お邪魔虫。

「お前はいらん。じゃあな。」

知らん顔をして去ろうとした俺に、咲はチャリチャリと何かの音をさせた。


「へー、愛車いらないんだ。貰っちゃおう。」


…この野郎。


「兄貴に会わせたいからわざわざ一緒に来たのに。」



そう言う咲を見ると。


隣には咲と背がほとんど変わらない(もしかしたら少し小さいかもしれない)男が立っていた。