それは、10月も半分を過ぎた頃。




支店の営業成績を上げるために、ひたすら仕事だけを休みも取る事なくこなしていた。


ようやく少しずつではあるけれど、その結果が出始めていたそんな時。


夜遅くまで仕事をして、クタクタになって仮住まいのアパートに帰ると…


「は?」

「やっほ〜!」



玄関前に咲が立っていた。




「やっほーじゃねぇだろ、何やってんだよ。」



いきなり過ぎて夢か現実かわからなくなるじゃないか。



「あ、詩織ちゃんの方がよかった?」

「馬鹿。夜は冷えるんだから早く入れ。」




鍵を開けて部屋に入るように促す。




「ちょっとねー、色々あって息抜きしに来たの。」




部屋に入るなり、咲はため息と共に言葉を零した。



「また企画で負けたか。」


「だってっ、ムカつくじゃん!
男のくせにさ、女性の下着のなんたるかを語るんだもん!」



職場の上司(男)に企画会議で負けるたびに、俺の所でやけ酒を飲む咲。


だからってこんなとこまで来るか?


しかも毎回言うことが同じなんだよなぁ。



…もしや。



「聞いてんの⁉︎祐太朗!」


「お前さ、その…名前なんだっけ?上司の。」


「?…山本さん。」



「お、そうそう。山本さんのこと、意識してるだろ。」


俺がそう言うと、咲は勢い良く立ち上がる。



「ばっ…バッカじゃないの⁉︎ありえない!祐太朗の馬鹿!」




…あながち間違いじゃないんだな。




「でもさ、お前は山本さんに負けないようにいつも努力してるわけだろ?
相手もそれに負けじと頑張るわけだ。


切磋琢磨できる相手ってのはいいもんだぞ?」



そうやって同じ価値観で同じものを作り上げる、仲間って大切なんだけどな。


俺にとっての本社の広報課のみんなのように。




「だからって、あたしは別にあんな奴気になんかしてないっ。」


…言ってる時点で気にしてるんだよ、バカか。

「年下だし、チビだし、メガネだしっ、インテリ臭くて嫌なの!」


「へー、年下なのか。」


…知らなかった。話題には出て来てもそういった話は今までしたことがなかったなぁ。