会議室を出ると、目の前に詩織が立っていた。


「池永、ちゃんとデスクに戻って仕事をするように。」


一線を引くようにそう詩織に告げると、人事部に向かう。


何も言わず、ただ立ち尽くしていた詩織。


納得がいかない、と昨夜も泣いてたっけ。


抱きしめたい。


俺のものだと叫びたい。



…でも。


人の繋がりはいつ切れてしまうかわからない。


詩織と俺が別れないとも言い切れない。


詩織がいつか俺に愛想を尽かすかもしれない。



そんな不確かな2人が、一時の感情で未来を決めてはいけない。


…すまない、詩織。俺の我儘だ。


人事部に入り、人事部長に必要書類と辞令を手渡される。


「神山、広報の池永から辞表が提出された。今は預かってるだけなんだが…お前の彼女なんだろう?
思いつめた顔をしていたよ。大丈夫か?」


…辞表?


詩織が辞表を?何故。

「見せてもらえますか?」



まだ未開封のそれは、間違いなく詩織の文字で『辞表』と記されていた。


「保留なんですよね?」

「今の所は。」



…なんでこんな事をするんだ。





俺なんかの為に。





俺みたいな奴の為に自分の人生を棒に振るような事をするなんて!