「好き…なんですっ、課長のこと!」



……マジかよ。


ってか、そういうのに気づかない俺って鈍感⁉︎



「最初は違ってました…怖くて近寄り難くて…でも、知れば知るほど優しくてあったかい人だってわかって…。」



ぎゅう、としがみつく柔らかな身体。

背中に腕を回し抱きしめる。
やっとだ。


やっと彼女を抱きしめることができた。


「でもわたしなんか相手にされっこないって、そう言われて。」


「は?誰に?」


なんだよ、それ。俺の知らないところで誰がそんなこと言うんだよ。


「菊池さん。課長はオトナだし素敵な人だから、それなりの女性と付き合うだろうし、わたしみたいな子供は相手にされないって。わたしもそう思ってて。」



泣きじゃくる事も無く、淡々と池永はそう言う。
俺の知らない、うちの会社での俺のイメージってやつか。

本人は女々しくてなかなか好きなオンナに気持ちを伝えることが出来ないってのに。


「でも、毎日お弁当作って、毎日メールして。まるで彼女みたいで嬉しくて。そんな繋がりがなくなるのが怖くて気持ちを言えなかったんです…擬似体験でもいいから、自分のなかで課長の彼女みたいに思えてたら、それで幸せだったから。」



ゆっくりと顔が上がる。
涙目だけれど、凛とした表情で。



「好きな人の事なら何でも知りたいから、聞いて回ったりして。誕生日は総務課の同期に聞きました。時計の話は伊島君から。」




…そういやぁこの前の飲み会の時にそんな話したな。



「迷惑だったら返品してください。」



ゆっくり、身体が離れ距離を取られる。


腕は、抱きしめる身体を失ってダラリと下がる。


「迷惑かけてすみませんでした。」

離れていく彼女の腕を条件反射で掴む。


「詩織」


名前を呼んだら、彼女の瞳から涙がたくさん溢れ出す。



「詩織、離れていくな。


俺も…俺も君が好きだ。初めてなんだ、こんな気持ちになったの。」


どうしたらいいのか分からなくなるほど、君を想ってる。



抱き寄せた彼女の耳元に、囁くように呟く。



小さく身体を震わせた詩織は、ぎゅうっと再び抱きついてくると、声を上げて泣きじゃくった。