咲と合流する。



とにかく一時もじっとしていない奴で。


荷物持ちに徹してる俺は、はたから見たら妻の尻に敷かれた旦那って感じだろうな。



「祐太朗、次あっち!祐太朗の服見るからね!」


ド派手な服装の咲はとにかく目立つ。
今日も真っ黒なスキニーパンツに真っ赤なピンヒール、白いシャツの上にドルマンスリーブのニットを合わせて細身の赤いベルトをしている。


真っ黒な長い髪はストレートだ。



「祐太朗は無駄にスタイルいいから、選び甲斐があるわ〜!」



兄に向かって言うセリフか。


全く、こいつにだけは逆らえない。
オヤジもお袋も絶対に逆らわないしな。



「スーツばっかりだからかっちりしたのはつまんないし…ジーパンに合わせてシャツ買うかな〜。」



大きな声で独り言。
どこまでも賑やかな奴だ。



「課長?」



小さな声が背後からして。
振り向いた俺の目に映ったのは、昨日とは打って変わってジーパンにパーカー姿の池永だった。



「お、池永。またまた偶然だな。」

「あ、はい。あの…課長の彼女さんですか?」


不思議そうな顔をして聞かれて、はい?と思う。



彼女???




ハッとして振り向くと、そこにはニンマリと笑う咲が立っていた。




「あ、いや、違う!妹なんだ!」



俺の慌てように咲は益々ニンマリと笑う。

あぁ、勘違いしてやがる。


「妹さん?そうなんですか。初めまして、課長にはいつもお世話になっています、池永詩織です。」


丁寧に頭を下げる池永に、咲は優しく笑うと挨拶をした。



「かーわいい!詩織ちゃんね、あたしは咲、神山 咲 (かみやま さき)よ。よろしくね!あなたは…えーと、兄貴の彼女?じゃなかったら兄貴の片思い?」




…言うと思った。


それを聞いた池永は大きな目をさらに大きくして驚いていた。



「咲、池永は彼氏持ちだ。勘違いするな。」


嗜めるように低い声で言うと、咲はなぁんだ、と残念そうに呟いた。



「祐太朗の好みかと思ったのに。残念だわ。」



もう一度そう言うと、咲はじゃあね、と池永に手を振り先ほどの店の中にまた戻ってしまった。


「すまん、不躾な態度の妹で。嫌な思いをさせてすまなかった。」


小さく頭を下げる俺に池永はいえ、と小さく答えた。



「元気ないな、良くない結果だったのか?」



少しだけ心配でそう問いかけると、彼女は笑顔で「いいえ」と答えた。



そうか、よかった。
別れを告げると言っていたけれど、やはりやり直すことにしたんだな。



「ちゃんと話し合い出来ました。
別れたんです、わたし。」



ニコッと笑う彼女の微笑みが、ひどく傷付いているようで辛かった。