その後。


その女性から掴みかかられて思わず引っ叩いてしまったわたし。


謝る事も出来ずに走り去った彼女は、きっと祐太朗さんのことが本当に好きで。

好きで好きで仕方なくて、振り向いて欲しくてやったこと。


わたしがもしあの時、祐太朗さんにプレゼントなんかしなくて、一緒に食事したりすることもなかったら。

どうなってたのかな。


必死に振り向いて貰うために彼女のようにぶつかっていけたかな。


そうやって考えたら、わたしはわたし自身で何かをすることもなく今に至ってる気がして。


「待って、顔洗ってくる。」


そう言って他の女性とキスした唇をわたしに重ねるのを拒否した彼を止め、


「わたしが消してあげる…」


そう言って背の高い彼に自分から口付けた。


そんなことしたことなくて。

凄く恥ずかしかったけど、綺麗にしてあげたかったから…舐めるように口付けた。



唇を離すと祐太朗さんはびっくりした顔をしていて、更に恥ずかしくなってしまった。


「好きよ」


そう告げて。
わたしたちは身体を重ねた。


何にも阻まれることなくひとつになって。

それは本当に本当に幸せな時間だった。
謝らなきゃならない指輪やネックレスのことも、何も言わないのに分かっていたみたいで。

もしかしたら、伊島課長と菊池さんが何かを伝えたのかもしれないけど。



新たな指輪はエンゲージではなく、マリッジで。


シンプルなプラチナは祐太朗さんの左手薬指にも輝いていた。


薄い届け出の用紙に記入して、わたしは池永詩織から神山詩織に変わる。


もう、何があっても迷わない。
疑ったり不安になったりしない。

妻という立場に立って恥ずかしくないように、祐太朗さんの隣に立つのに相応しい女性になるように。


頑張るんだ。