スタンドに戻り愛車を引き取る。



綺麗に磨かれた黒いボディ。

この車の好きなところのひとつだ。



ドライブでもしようかと思ってみたものの、1人はつまらない、と思いやめた。



何をしようかと悩んでいた所に。



偶然にも歩道を1人歩く池永を発見した。



この前のカフェオレの御礼をしてなかったな、と思い出しクラクションを短く鳴らす。



気付いた彼女が近づいてきた。



「課長!」



満面の笑みで話しかけてきたということは、彼氏との予定が入ったんだろうか。




「偶然ですね!」



「そうだな、何処かへ行くところか?送って行こうか?」


そう言うと彼女は嬉しそうにはい、と答えた。




「図々しくお願いしてすみません。」

「いや、この前のカフェオレの御礼だよ。で?どこに行けばいいんだ?」


訪ねた俺に小さな声でここから車で30分くらいかかる場所を言う。



「彼氏のとこ?」


「あ、はい。ちょっとアポなしで行ってみようかと。」



…なんか怖い展開になりそうな予感がする。


「アポなしで大丈夫か?」


「もう白黒ハッキリつけたくて。


こんな事課長にお話することじゃないんでしょうけど…。」



「もう好きじゃないのか。」



…まるで俺がいつも言われていたことみたいだ。

他に好きな人が出来たの、とかもう好きじゃないの、とか…。
言われた方はたまったもんじゃないけどな…。

「わたしより、彼の方がもうわたしを好きじゃなくなってるんです。

だから、わたしから別れを切り出すしかないなって…あはは、ホントもういやになりますよね、こんな話。」




切ない目をして笑う池永の頭をぽんぽん、と撫でて。


「辛い時は笑うなよ。見てる方も辛くなるからな。」


初めてかもしれない。
池永に対してこんな優しい気持ちになったのは。




他愛ない話をして。
あっという間にドライブは終わりに。



マンションに到着し、車を降りた池永に声をかける。



「辛かったら話せよ。それくらいきいてやるよ、いくらでも。」

「はい、課長、ありがとうございました。」



背中を向けて歩き出す彼女を見ていたら、俺まで切なくなってしまった。