「さーて、逃げるぞ」

ウィリアムは前方を睨みながら、独り言のように言った。

マリアは、ウィリアムの横顔を見た。

そして、夏物の白いシャツから透ける、逞しい腕を見た。

何やってんだろ、あたし。こんなときに…

ウィリアムに見えないように、赤くなった顔を背けた。



ギュルン、とタイヤが音を立てながら、車が急カーブする。

マリアは運転席に飛ばされそうになって、シートベルトを握りしめた。

ボロボロになった車で、細い道を駆け抜ける。

たまにこすれて火花が散った。



何度も角を曲がり、105号線からかなり離れたころ、ウィリアムはやっとブレーキを踏んだ。