無名の私立探偵、ウィリアム・アークライトは、この通りに面した小さなビルの1階に事務所を構えていた。

ビルといっても3階建てで、他の家々とたいして変わらない。

ただ、殺風景な白いコンクリートの箱みたいな造りが、少し異質ではある。

「どうも、この度はありがとうございました」

ビルの前で、1人の貞淑な女性が、若い男に頭を下げている。

男は、西洋人には珍しく漆黒の髪をしている。

すらりとした、長身。

褐色の瞳。

少し青みがかったシャツに、洗いざらしのジーンズ。

青年は長い前髪をかきあげながら、女性から小さい茶封筒を受け取った。

「また何かありましたら、どうぞ。まぁ、私などとは、二度と会わずにすむほうがいいんでしょうがね」

そう言って、彼はシャツの首もとをつまむと、パタパタとあおいだ。