少女は、鼠にかじられて穴だらけのソファの埃を払って、腰かけた。

ウィリアムはデスクについて、旧式のコンピュータを起動している。

「俺は、ウィリアム・アークライト。年齢は、……まぁ……、25手前かな」

「なにそれ」

「いや、自分でもよく分からないんだよ。気づいたらこの街に来ていた。10年くらい前かな。…まぁ俺の話はいいだろ。お前さんは?」

「あたしは、マリア。マリアンヌ・アーヴィング。12歳」

トタタタ。

ウィリアムが少女マリアの言葉をコンピュータに打ち込んでいく。

アーヴィングと聞いて、ウィリアムは軽く身を乗り出した。

「アーヴィングって、あの有名な大財閥の?」

「そうよ。この街を牛耳ってる、と言われている、悪名高いアーヴィング家」

「ふうん、なるほどね。当主が亡くなったって話題になってたな……。ってことはさっきの騒動は、普通に考えて遺産絡みか?」

「大当たり」

「そりゃあ、アーヴィング家ともなれば遺産の額も相当なもんだろう。それで真っ昼間からスナイパーがお出ましってわけだな」

トタタタ。タン。

ウィリアムは頬杖をついて、画面を眺めている。

「そう。それもあるの。でもそれだけじゃない」

「というと?」