高梨さんの日常




☆☆


コンコン

ドアがノックされて、お姉さんがお茶を持って入ってきた。

「高梨ちゃん、大丈夫?寒くない?」

「はい」

北条がいたから。

お姉さんは少し湯気の立つ湯飲みを差し出して、にこりとわらった。

「これ、うちのお店でも出すやつなんだって。私とツカサが好きだから家にも置いてくれてるの。」

「そうなんですか」

北条が好きな緑茶。

口に入れると、少しの苦味と、ふんわりといい香りがする。

「…おいしい」

「ふふ、でしょ?よかった」

「あの、お姉さん…」

北条がいないうちに、と、お姉さんに聞きたいことがあったのを思い出す。

「また、メールで聞こうと思ってたんですけど…」

「ん?なに?ツカサのこと?いいよいいよ!言っちゃって!」

あっさりと了承してくれて、ありがたい。

「北条ってチョコ、好きですか」

「んー…普通に好きなんじゃないかなー。こないだもチョコでなんか作ってたし」

「そうですか、よかった」

お姉さんの言葉にホッとする。


「…バレンタイン、だよね?」

「はい、そうです」

そう、あと一週間くらいでバレンタインデー。

お姉さんも彼氏にあげるのだろうか。

「そうだよね!ねね、じゃあさ、一緒に作ろうよ!」

「え、本当ですか?」

「うん、うちの大学にさ、使える調理室があるからさ!」

嬉しいお誘いだ。

「是非、お願いします」

「うん、私、実は料理はあんまり得意じゃないけどね。ツカサの好きなチョコレートのお菓子も聞いとくよ」

「はい、ありがとうございます!」

お礼を言うと、お姉さんは、またにっこりと優しそうに笑った。