高梨さんの日常



泣くこと、が恥ずかしいとでも思っているのだろうか。

顔をあげない高梨は今どんな表情なのだろうか。


「高梨、こっちおいで」


タオルドライをしていた手を止めて、高梨の方に向き直って腕を広げた。


何も言わないでいい。

きっと無表情なことと関係があるんだろうけど、今は何も言わないでいい。

俺にただ頼ってくれればいい。

全てを預けてくれればいい。


トンっと倒れかかってきた高梨。

体の向きを変えないのはきっとせめてもの意地だろう。

もっと

もっと

もっと

頼ってくれ


いつも以上に細くて折れそうな高梨を目いっぱい抱きしめる。


「好きだよ、高梨」

耳元で囁いた。



「…なんで北条が泣く、かなー」

俺の声が震えているのに気付いた高梨はボソリと言った。

返す言葉が見つからなくて抱きしめる力を強める。

「あったかいね、北条は」


また呟くと、高梨はようやくこっちを向いてくれた。

近い距離に高梨の顔がある。

目元はうるんで、いつもは白い肌と同じく赤い。

だんだん近づいてきて、どちらからともなく唇を重ねた。

感じる熱がいつもより熱い。

いつもとは違う貪るようなキス。

いつもより感情を押し付けてくる高梨。


響き渡る水音が頭をおかしくするけれど、

それを精一杯受け入れた。