今日も貴方のために私は総てを忘れた

小白は用意されていた着物に着替えると成利に指示された通りに広間であろう襖の前に立っていた。

「ここでいいの…かな?」
「おお、小白ではないか。」

いきなり声をかけられ後ろを振り向くとそこには一人の男性がたっていた。
記憶には無いもののさっき信長と一緒にいた。

「信長様はこちらだ。さぁ。」

襖を開けると上座に信長下座には利成ともう一人男性と少し離れて女性が座っていた。

「小白殿、先程ぶりで御座います。」

成利は先程と変わり落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
女性の方は何を考えているのか解らない、無表情で此方を見、ゆっくりと立ち上がり小白へ歩み寄る。

「小白様、お元気そうでなにより、全ては利成様にお伺いしました。」
「あの…あなたは?」

知り合いなのだろうが小白には覚えがない。

「失礼、私、琴と申します。此度は…」
「琴、長話は後にしろ。我は小白に話があるから此方に読んだのだ。」

信長は持っていた扇子を懐に直すと小白に座るように指示をした。

「小白、此度の件我は残念でならん。」

信長は眉をへの字に曲げると小白は申し訳なさそうに顔を伏せた。

「しかし、お前のような優秀な忍を手放すと正直心苦しい。」
「申し訳ありまはせん。」
「謝るでない。だから我は良い案を思い付いたのだ。」

信長は自信満々に声にだした。

「これより小白、今より少し暇を出そう。何としても記憶を取り戻すのだ!」
「えっ…ええ!」

小白が驚愕するのも当たり前だ。
出ていくなら未だしも何の力のない娘をここに置いて置くなど正気の沙汰ではない。

「殿…!」
「ええい!だまれ!我の決定を覆す異論は認めぬ。ここにいるものは他言無用!よいか!」