歩き出せ私たち







「あの時は私がおかしかったんだよ。キスくらい、友達同士でも、こう、挨拶感覚でするのが普通なんでしょ?」


「普通じゃねーよ。」


「じゃあ、なんでノボルは、あんなことしたのかな。」


「あいつのすることだから、よくわかんねーけど・・・」


「ノボルは、誰とでもキスできちゃう人なんだね。きっと。」



ノボルは昔から、そういう人だった。
気まぐれな言動で周りを振り回す。
しかも、本人にその自覚がないものだから救いようがない。

いつも避けてきた話題になった途端に、私達の口数は減った。
やっぱり、こういうトーンでこういう話をするのは苦手だ。

こういう空気になるってことは、最初から分かってたはずなのに。
私も、トモヤにまで気を遣うのは嫌だったんだ。



「さ、トモヤ、今何時?」



不自然なくらいわざとらしく話を中断して、トモヤに顔を向ける。
トモヤは一瞬戸惑ったような顔をしたものの、私の気持ちを察したのか、腕時計を確認した。



「9時50分」


「そろそろ行こっか、映画館。」


「なにみんの?」


「トムハンクスのやつ。」


「ああ、俺も見たかったんだ、それ」



CGをそれはもうふんだんに使ったハリウッド映画が好きだった。
私も、トモヤも。

それだけじゃない。
好きな漫画も、音楽も、同じものが多い。

思えばアキナやノボルが昨日やっていたドラマの話をしてる間、私達は昨日発売したジャンプの話をしていた。
お似合いと言われるのは、そういうとこなんだと思う。