『これは命令だよ?ちえ。拒否権なんてないからね』


蓬田からちえと呼び名を変えた彼は笑うと、呆然としている彼女を残して足早に立ち去った。

それが、昨日の出来事。


「はぁ…」


(一体、どういうつもりなのかな…)


朝から自分の席でちえはため息をつく。首を下にさげているからか眼鏡がずり落ちそうになり、それを掛け直すとまた息をついた。


「おーすっ、蓬田。朝からどうしたんだよ」

「あ、宮内くん…、おはよ」


目の前の席に腰をかけながら挨拶してきた浩にそれを返す。


「何か悩み事か?相談ならのるぜ?」

「えっと…」


どう言えばいいか分からず口ごもる。


(……言えるわけがないよ。恋しなよ発言されただなんて)


どうしようか考えていると、クラス中から視線を浴びながら悩みの種である金髪王子が登校してきた。


「おはよっ!」

「はよ、ルイス」

「おはよう」


声をかけられた彼はあの作り物の笑顔を浮かべてにこりとする。

いつものように席につくとたちまち女の子たちがルイスに群がり楽しそうに話し始めた。

ルイスもそれに笑って対応する。


(…昨日と変わらない。やっぱりからかわれただけかな)


無意識に握った拳に気がつかないままそれを観察していると、ふと目が合った。