ルイスは彼女の傍で立ち止まると、肩を壁に押しつけた。

痛くはなかった。けれど、逃げられなくなってしまった。顔の両横に手を置かれてしまったのだ。

ちえは顔を俯かせてぎゅっと目を瞑る。今の彼は、きっと笑っていない。


「…、目開けて」


片方の手で彼女の顎を手にかけ上を向かせる。ちえはルイスの言葉に威圧感が含まれているのを肌で感じ取り、恐る恐る目を開いた。

やはり、彼は笑ってなんていない。


「僕さ、ずっと君を待ってたんだ」


蒼い宝石のような瞳にちえが映り込む。

もしかして聞かれるのだろうか。今朝のことや今まで顔を出来るだけあわせないようにしていたことを。


「…あ、の…何ですか…?」


不安と緊張と恐怖で可笑しくなりそうだと頭の隅で考えながら訊ねる。


「聞きたいことがあって」


ダンと小さく音をたてながらちえの頭上の壁に腕を置きぐっと距離を詰めたルイス。もう片方の手は未だ顎を掴まれたままだ。


「どうして僕を見てびくびくするの?」

「…っ」


分かっていたこととはいえ、ちえは動揺の色を浮かべる。


「答えて。じゃないと…」


ルイスは自身の顔を彼女の耳元にもっていく。


「離さないよ」


低く呟かれ、びくりと震えた彼女から少し顔を離すと顎にかけていた手を外しするりと柔らかい頬を撫でる。