「…大分遅くなっちゃった」


放課後。窓から覗く景色は闇色になる直前だ。誰もいない廊下でひとり歩くちえはため息をつく。

今日は委員会があり、委員同士で会議をしたり雑用したりで忙しかった。

疲れたような顔を浮かべながら鞄を持ち直し前を見据えると、驚いたように目を見開いて彼女は立ち止まる。


(…何でトムリアムくんがこんなところにいるの!?)


ルイスは階段の近くの壁に寄りかかり目を閉じていた。

ちえは怯えたように彼を視界で捉える。


(…どうしよ、もうひとつ階段はあるけど、此処まで来て違う階段を降りるのは…)


朝あからさまに目を反らしたばかりだ。流石にそれは出来なかった。


(通り過ぎるしか…ない、よね)


グッと鞄を持つ手に力を込めると、身体を縮め地面だけを見るようにして一歩一歩足を動かす。

その一歩がやたら長く感じながらもなんとか彼を通り過ぎホッとしたのも束の間。


「待ちなよ」


声を、かけられた。

瞬間、足が固まり動けなくなる。自分に話しかけていないと願いたいところだが残念なことに今ルイスの周りにはちえしかいない。


「…っ」


コツリコツリと足音が耳に届く。そのたびにちえは全速力で逃げ出したくなるのを我慢する。