この出会いは必要だった。神様のイタズラでもなんでも、なくてはいけないものだった。
じゃないと、綿毛は透明のままだった。むしろ花のままだったのかもしれない。
それはとても恐ろしいことだと思った。
彼が幸せでよかった。心から、本当に。
清々しい気持ちだった。足枷が外れたような自由で、それでいて焦燥感。
_________会いたい、あの人に。
本能から。
「私、帰るわ」
「短いな。俺らがいるから?」
彼は無意識下できっとわかっているのだろう。でも、わからないふりをする。
「違うよ。突然に会いたくなっちゃった人がいるの」
どうしても。どうしても。
こんな焦がすような想いは新鮮だ。
「それは、会いに行かなくちゃなぁ」
俺も嫁が拗ねるし、と笑った。
私も笑った。
私はお互いにさよならをした時、「今さらだけれど結婚おめでとう」と祈るように祝福した。彼は私が好きだった笑顔で「ありがとう」というと息子と反対道へ帰っていった。
私は帰らなかった。
私はあの人に会いに行く。
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扉を開けるとお馴染みの小さなベルが二度ほど鳴った。あの人がいた。恋い焦がれるほどの、あの人が。
「今年はどんな花にしますか?」
ガラスケースを開けて彼は物色しだした。
満さんは私がおはなのようせいだということをしっていた。
毎年、私は訪れた。
私はかぶりを振って答えた。
「今年でもう、花蒔きは終了です。だから、このタンポポに合うブーケを一ついただけますか?」
「というと?」
「食卓に飾りたいのです」
そういうと満さんはなるほど、といって柔らかく笑ってブーケ製作に取りかかった。
その表情はどこか嬉しそうだった。
私はそんな顔を見てしまって思わず口が滑ってしまった。
「会いたかった、です」
剪定していた手が止まった。
そして、かれは顔を真っ赤にしてリンゴになった。
「また会いに来てもいいですか?」
ロボットのようにぎくしゃくと、頷く彼に私は満足げに笑って、ブーケをずっと眺めた。
End

