ノンフィクションの本が置いてあるエリアに到着し、先ほど覚えた請求記号を頭の中で唱えつつラベルを順に目で追って行くと、ほどなくして目当ての本にたどり着いた。
普段だったら嬉々として抜き出す所だけれど、それとは正反対の感情を抱きながら、オレはノロノロと右手を伸ばし、背表紙の天辺にそっと人指し指をかける。
「あ、比企君お疲れ様ー」
ちょうどその本を右手で引き出して掴み取った所で、右手側の通路の方からそう声をかけられ、オレは思わずビクッと肩を揺らした。
その動きと連動して指が開いてしまい、必然的に、本は重力に従って床に落下する。
「あらら、ごめんなさい。驚かせちゃった?」
耳で捉えた瞬間にすぐに予想はついていたけれど、そちらの方向に顔を向けると、案の定声の主は佐藤さんだった。
図書館の資料は際限なく、永遠に保管できる訳ではないので、定期的に廃棄処理する物を選出しなければならない。
その判断基準は色々あるのだが、大雑把に言えば、見るからに古くて傷んでいて、データ上ほぼ利用されていない資料から処分して行く決まりなので、廃棄担当者はその選定をする際、必然的に書庫に籠る事になる。
佐藤さんは今まさにその作業中であったらしく、軍手をはめた手で数冊の本を抱え、こちらに歩み寄って来た。
「あ、い、いえ…」
オレが挙動不審になっている間に至近距離まで来た彼女は、素早くしゃがみ込むと、落とした本を拾ってくれる。
「あ、す、すみません」
司書が本を(そんなつもりはなかったけれど結果的に)乱暴に扱ってしまい、しかも他の人にそのフォローをさせてしまうなんて…。
「ううん。私の方こそごめんなさいね。……あら?」
表紙を上にしてこちらに本を差し出した佐藤さんは、何気にタイトルに目を向けたあと、呟いた。
「これって、たしか…」
「え……。ご存知なんですか?」
「ええ。あれでしょ?昔あった、山田聖くん事件の。……ああ、やっぱりそうだわ」
佐藤さんはクルリと本を裏返し、そこに書かれていた解説文を読んで自分の記憶が正しかった事を確認したようだ。
「新聞やテレビで連日報道されていたからね。見ていて、とても心が痛んだわ」
「…実はオレ、その事件の事は全然覚えてなくて…」
普段だったら嬉々として抜き出す所だけれど、それとは正反対の感情を抱きながら、オレはノロノロと右手を伸ばし、背表紙の天辺にそっと人指し指をかける。
「あ、比企君お疲れ様ー」
ちょうどその本を右手で引き出して掴み取った所で、右手側の通路の方からそう声をかけられ、オレは思わずビクッと肩を揺らした。
その動きと連動して指が開いてしまい、必然的に、本は重力に従って床に落下する。
「あらら、ごめんなさい。驚かせちゃった?」
耳で捉えた瞬間にすぐに予想はついていたけれど、そちらの方向に顔を向けると、案の定声の主は佐藤さんだった。
図書館の資料は際限なく、永遠に保管できる訳ではないので、定期的に廃棄処理する物を選出しなければならない。
その判断基準は色々あるのだが、大雑把に言えば、見るからに古くて傷んでいて、データ上ほぼ利用されていない資料から処分して行く決まりなので、廃棄担当者はその選定をする際、必然的に書庫に籠る事になる。
佐藤さんは今まさにその作業中であったらしく、軍手をはめた手で数冊の本を抱え、こちらに歩み寄って来た。
「あ、い、いえ…」
オレが挙動不審になっている間に至近距離まで来た彼女は、素早くしゃがみ込むと、落とした本を拾ってくれる。
「あ、す、すみません」
司書が本を(そんなつもりはなかったけれど結果的に)乱暴に扱ってしまい、しかも他の人にそのフォローをさせてしまうなんて…。
「ううん。私の方こそごめんなさいね。……あら?」
表紙を上にしてこちらに本を差し出した佐藤さんは、何気にタイトルに目を向けたあと、呟いた。
「これって、たしか…」
「え……。ご存知なんですか?」
「ええ。あれでしょ?昔あった、山田聖くん事件の。……ああ、やっぱりそうだわ」
佐藤さんはクルリと本を裏返し、そこに書かれていた解説文を読んで自分の記憶が正しかった事を確認したようだ。
「新聞やテレビで連日報道されていたからね。見ていて、とても心が痛んだわ」
「…実はオレ、その事件の事は全然覚えてなくて…」

