幸せになるために

当図書館の利用者登録条件は「市内に住居、もしくは通学先や勤務先がある者」となっているので、当然、オレ達スタッフにも権利はあり、言わずもがなで、全員ここに勤め始めるのと同時にカードを作っている。

すぐ手が届く範囲に本が溢れかえっていて、選り取りみどりな状態なのだから、図書館に勤務するほどの本好きが利用者登録をしない訳がない。

何人もが予約しているような人気の本であっても、きちんと順番を守り、期限内に返却するのを大前提として、遠慮せずに堂々と借りて良いのである。

ただし、自分用の本を探す為に館内をうろつく際は、一般の利用者を戸惑わせたりしないよう、休憩中か勤務時間外に、エプロンとネームプレートは外した格好で、という条件付きだけれど。

ただ、午前と午後にそれぞれ割り振られている15分間の休憩は、トイレに行って手を洗って休憩室でちょっとお茶して…なんてやっていたら瞬く間に過ぎてしまうし、また、予め何を借りるかは決めていなくて、書架を見てから判断したい、という場合は昼休みでも時間が足りなかったりする。

なので、たいてい皆本を借りるタイミングは早番の日に、自分の勤務時間が終わってから、というのが主流であった。

それならば時間を気にせずにゆっくりと本を選ぶ事ができる。

もちろん、閉館の20時までには帰らなくてはいけないけれど。

そして、本によっては一般開架と書庫に分けて置かれている物がある。

いくら遠慮する必要がないとはいえ、両方に在庫があるのならば、やはり一般開架の本は利用者の為に残しておき、スタッフは書庫の本をチョイスするのが望ましい。

そして、それならば最初から書庫に赴き、端末機で保管状況を調べて(本のジャンルと作者名まで分かっている場合はどの辺にあるのか見当がつくし、また、最初から目当ての本がある訳ではなく、適当にあちこち見てから決めたい、という場合は検索せずに書架に直行するけど)在庫があったら棚から取って来て、自分で貸出処理までしてしまえば手っ取り早いし、同僚の手を煩わせる事もなく一石二鳥だろうという事で、スタッフが本を借りる際は先ほどのオレのような動きになるという訳だ。

もし一般開架にしか置いていない、もしくは貸出可能な本はそこにしか無い、という場合はもちろんそちらを借りて良いのだけれど。


「え~と…」