幸せになるために

「亡くなった子が『山田こうき』君であるという記事がヒットしたという訳か」

「その通りです。そこから、今度は大手新聞社が提供している過去の記事が閲覧できるサービスを利用して、事件の全体像を掴んで行ったという次第です。新聞の記事は確かな取材を経て書かれているハズですからね。間違いなく、過去にこういった事件があったのだという事を認識できました」


そこで吾妻さんは、この場に漂っている緊迫した空気を少しでも和ませる為にか、少し口調を柔らかくして言葉を繋いだ。


「まぁ、膨大な資料の中から目当ての物を探し当てる、という作業を日常的に行っているであろう司書さんは、検索にかけてはプロでしょうから。俺なんかの解説は蛇足も良いところかもしれませんが」

「あ、いや。そんな事は…。とても参考になったよ」


さっそく今日の夜にでも、ケータイで調べてみる事にしよう。

正直、何が書かれているのか、知るのが怖い気もするけれど。


「それとですね…」

「ん？」

「おそらくネットサーフィンをしていく過程ですぐに行き着くとは思うんですが、あるノンフィクション作家が、関係各位に綿密な取材を重ね、聖くん事件の背景を事細かに綴った書籍がありまして……」

「え。本まで出版されてるの？」


オレは心底驚いた。

しかも、言い間違いかと思ってスルーしてたんだけど、吾妻さんさっきから「事故」じゃなくて「事件」て言ってるよね？


「それだけ世間の注目を集めていたって事？でもオレ、全然覚えていないんだけど…」

「俺も、リアルタイムで事件の記事なり報道なりを見たという記憶は正直ありません。でも、１５年前って言ったら俺は９才、比企さんは１３才？ですからね。男子小中学生がそういった物に関心が薄かったとしても、それは仕方のない事だと思います」

「う～ん。そう言われてみれば確かに…」

「特に俺は、他人の事を気に病んでいるような精神的余裕なんかなかったし」

「え？」

「また、悲しい事に、次から次へと新しい事件が起きて、その前に起きたものの報道はすぐに止んでしまいますからね。そういった諸々の事情で、当時目にはしたのかもしれないけれど、それが印象深く俺達の記憶に残る事はなかったんでしょう」

「そ、そっか」