幸せになるために

しかし吾妻さんはオレに視線を合わせると、弱々しいながらも、真実を自分の口から告げる事をきっちり拒絶した。


「それに、つい感情的になって、片寄った情報を伝達してしまいそうですし。やはり、文章で残っている記録を、ご自分の目できちんと確認した方が良いと思うんです」

「文章の記録って……。たとえば、事故当時の新聞記事とか？」


若干圧倒されながらも、中途半端なまま終わらせたくはないので、続けて質問した。


「吾妻さんはそれでこうき君の事を色々調べたんだ…。じゃあ、図書館で縮刷版を閲覧してみて…」


ウチには無いから中央図書館の方に行かないとな。


「あ、いや。もちろんそれでも良いんですけど、もっと手っ取り早い方法として、俺はネットを活用したんですよ。キーワードを入れて検索すれば、簡単にヒットしますから」

「え？ネット？」


思わず、拒絶感がアリアリと窺えるであろう声音になってしまった。


「で、でも、そういう所の情報を鵜呑みにするっていうのはなぁ……」

「もちろん、書かれている事をそのまま信用するのは危険ですよ。不特定多数の人々が、どこから回って来たのか分からない怪しい情報を元に、誰かを責めたり誹謗中傷したりしているようなコミュニティもありますからね」


字面だけを捉えると、それを非難しているような発言だけれど、吾妻さんの口調はいたって冷静沈着である。


「もちろん、真実ならば理性を無くした状態で大勢で一人を叩いても良い、と肯定しているつもりはないので、そこはご承知おき下さいね」


そのように念を押してから、吾妻さんは続けた。


「だけど、何からどう調べて良いか分からない場合、とりあえず思い付いたキーワードを入れれば目当ての物にたどり着く、もしくはそのヒントを得る事ができる、というネットの仕組みはとても便利ですし、活用しない手は無いかなと思っています」

「ん～。まぁ、それは確かにそうなんだけどね」

「もちろん、それをそのまま真実として受け入れるのではなく、きちんとした裏付けを取る事が必要ですが」


比企さんの言いたい事は充分分かってますよ、という態度を滲ませつつ、吾妻さんは言葉を続けた。


「たとえば、俺の場合は最初から『山田聖』という名前が分かっていた訳ではないので、まず、ここの住所と１５年前の西暦、『事故物件』『５才男児』等のキーワードで検索をかけてみたんです。そうしたら…」