幸せになるために

「何で吾妻さん、そんなに他人に親身になれるワケ?」


オレはついつい呆れたような声を発してしまった。

20代前半にして、ちょっと人間出来すぎてやしない?

今思えば最初からやけに冷静にこうき君と対峙していたし、あの段階でもうその覚悟が決まっていたんだろう。


「え?だって」


吾妻さんは何をおっしゃる、という感じで瞬きを繰り返しながら返答した。


「俺達はもうあの子の存在に気付いてしまったんですよ?今さら無視したり突き放したり、逃げ出したりできるんですか?比企さん」

「うっ」


そ、そういう言い方をされてしまうと……。

すると突然、先ほどのこうき君の、お目々をじんわりとさせて縮こまっている姿や、体全体で喜びを表現するように、ぴょんぴょんと飛び跳ねている姿が、脳内スクリーンにバババーッと再現されて……。


「それは、ちょっと、できそうにないかも……」

「でしょ?」


吾妻さんは満足そうに頷いた。


「それに、聖くんが何かしら悪影響を及ぼす存在だったとしたら、本能が感じ取ると思うんですよね」

「ん?うん、まぁ、それは確かに」


それどころかむしろ、あの子を見ていると、とても心癒されるというか……。


「それが全く感じられない、そしてこれだけ自分の行動に自信が持てるという事は、きっと『迷わずそのまま突き進みなさい』って、後押しされているんじゃないかと思うんです」

「…え?誰に?」

「神様ですよ」


吾妻さんは胸を張って、キッパリと言い切った。

「あの子を天国へと送り出す、その重要な役目を担う者として、俺達は神様に選ばれたんですよ、きっと」


別のシチュエーションでいきなりこんな事を言われたら大いに戸惑ってしまう所だけれど、不可思議現象をリアルに体感している今、吾妻さんにその言葉を紡がれると、何の抵抗感もなくすんなりと、心に染み込んで来る。


「うん…。きっとそうだね」


だからオレは素直に同意した。


「でも、こうき君の心残りって言ったら、やっぱあれしか考えられないんじゃないかな?」

「ん?」


吾妻さんは再びコーヒーを口にしながらオレの言葉の先を促すように声を発した。