「基本、パステルでの色付けが一番得意なんですけど、作品によって画材を使い分けてますからね」


あずまさんはどこか嬉しそうな口調で説明してくれた。


「ポップな感じにしたい時はマーカーを使って、しっとりとした雰囲気を醸し出したい場合は水彩絵の具で、って感じで」

「なるほど~」


て事は、今作成中のウェルカムボードはポップバージョンだから、机の上に大量のペンが乗っていたという訳か。

ホント、色々と勉強になるなー。

自分がその知識を活かせる機会があるかどうかは、また別問題としてね……。


「今日はありがとうございました」


結局あれからもう一冊、今度はプロとして活動を始めてからの原画集を見せてもらい、コーヒーのおかわりなんかも出してもらっちゃって、さらにお互いの仕事以外のことにも話が広がり、ずうずうしくもトータル3時間、あずまさん宅に居座ってしまった。

いや、下手したらもっと長引く所だったんだけど、ジャケットのポッケに入れておいたケータイが震えたので、念の為どこからか確認した際に時刻が目に入り『こんなに時間が経っていたのか!』と気が付いたのだった。

で、「そろそろおいとまします」と宣言し、あずまさんと共に玄関まで移動して来た次第である。

ちなみに、メールは良く利用する大手通販サイトからのメルマガであった。


「すっごく楽しかったです~!」

「いえいえ、こちらこそ。またお互い時間がある時に語らいましょうね」

「うん。ぜひぜひ」


一旦背を向けて靴を履き、お約束のトントン作業をしながら再びあずまさんに向き直った所で、ちょっと神妙な口調で問いかけられた。


「ところで…。傷の方はどんな具合ですか?」

「ん?んー。全然痛くないといったら嘘になりますけど…。でも、大丈夫ですよ」


そこでわざとおどけた口調に変えた。


「むしろ、今までよりも頭がシャキッとした感じ」


それはあながち嘘ではなかった。

衝撃を受けた直後は星が飛び、貧血チックになって頭がクラクラしたりしたけれど、それが治まったら、何かこう段々目の前がパア~っと開けて来たというか…。

オレは両目の視力が1.0で、元々周りの景色がクリアに見えているんだけれど、さらに解析度がアップして、今まで見えなかった物まで見えそうな感覚である。