「そういうもんですか?残念だなぁ…」


オレだったら、あれだけの画才があったらすげー張り切って飾りまくっちゃいそうだけど。

さらに、ノリノリでちょっとしたギャラリーコーナーなんかも作っちゃったりしてね。


「ただ…こっそり保管はしてあるので…」


オレの分かりやすい落胆ぶりに同情してくれたのか、あずまさんはそこでサプライズな提案をしてくれた。


「よかったら、何点かここに持って来ましょうか?」

「え!良いんですか!?」

「ええ。ちょっと恥ずかしいですけど…。でも、比企さん俺の画風を気に入って下さってるみたいだし、怪我のお詫びも兼ねて」

「そんなそんな。お詫びなんて考えられちゃうと困ります。それとは全く別問題として、あずまさんが了承してくれるなら、ぜひぜひ拝見したいです!」

「……じゃあ、ちょっと待ってて下さいね」


言いながら立ち上がり、あずまさんはリビングの隣室に繋がる出入口まで歩を進めると、戸を開け、素早く中へと消えた。

次いでガラッという音と、ガタガタと何やら動かしているような音が響いて来る。

きっと押し入れの中に作品を保管しているのだろう。


「お待たせしました」


ほどなくして、あずまさんはスケッチブックと、アルバムを巨大化したみたいな物を小脇に抱えて戻って来た。


「えっと、まずこっちは習作というか、適当に描きなぐったものなんですけど…」


そしてカップや小皿を端に避けると、それらをテーブル上に置き、解説しながら先にスケッチブックを開く。


「うわぁ~!」


そこには鉛筆のみのラフな線で、猫や雀、果物や野菜、車やバイク、はたまた空に広がる入道雲など、日常生活の中で目についた物をランダムにチョイスしたのであろう、動物や静物や風景がリアルタッチで描かれていた。


「白黒の世界なのに、まるで色が見えるようだなぁ。鉛筆だけで、これだけの表現ができるんですね~」


年賀状に犬を描いて送ったら、受け取った友人全員にこの世に存在しない、想像上の生き物だと勘違いされたオレがいっちょまえに評価するのもなんなんだけども。

ていうか、先ほどあずまさんは「イラストと学校の授業で描くような絵は全然違う」と主張していたけれど、これを見る限り、やっぱ美術も得意だったんじゃ…?と思わずにはいられない。