幸せになるために

オレのトーンダウンした口調と表情からそれを読み取ったのか、あずまさんは笑みをこぼしながらフォローしてくれた。

次いで、リビングのデスクを指差しながら言葉を繋ぐ。


「ズバリ、今制作してるのがそのウェルカムボードなんですけどね」

「え!?ホントですか?」

「ええ。ただ、依頼人の許可なくお見せする訳にはいかないので…」

「あ、そ、それはもちろんそうです」


今のテンションがまるで『見せて見せて』とねだったみたいになってしまったかと焦りつつ、オレはコクコクと頷いてあずまさんの意見に異論はない事をアピールした。


「とか言いつつ…。すみませんでした。さっき、勝手に見てしまって…」

「いやいや。この距離でチラッと視界に入ったくらいなら全く問題ないですよ。机の上に出しっぱなしにしてお客さんを迎えてしまった俺が悪いんですから」


あずまさんの言葉に安堵しつつ、オレはインタビューを続けた。


「でも、ここまでのお話聞いてると、デビューからコンスタントにお仕事こなして来たみたいですね」

「ええ。自分でも、つくづくツイてたと思います」


謙遜してるけど、運によるものだけではなく、あずまさんの実力、仕事ぶりが評価された上での順当な流れだと思うんだよなぁ。


「で、一年の契約が終了し、相変わらず不定期に入る仕事をせっせとこなしていたある日、例のあの仕事を依頼されたんですよ」

「あ!『愛のカナタ』のカバーイラストと、挿し絵ですね?」

「そうですそうです。あの本も、出版元は俺のデビューを後押ししてくれた会社ですからね。その伝で」

「そっか~。あの本が世に出てから、もう4年くらい経つんですよね」


『働き始めて2年だし、そろそろ昇進試験を受けてみたら?』と佐藤さんに勧められ、勉強を始めた頃だったからよーく覚えている。

当然、装丁についての打ち合わせってのは発売日よりもだいぶ前から始まるんだろうから、あずまさんにその仕事が舞い込んだのはそれより数ヶ月前って事になるよな。


「プロになってから1年ちょっとでそんな大仕事を任されるなんて、すごい事ですよね~!」

「あ、いや。その時点で作者さんはまだ素人で、世間的にも無名でしたから」


あずまさんはオレの言葉をやんわりと訂正した。