幸せになるために

「そっか。その辺の事も、ちゃんと考えていたんですね」


つくづく気配りの人だ。


「そして高校卒業と同時に一人暮らしができるよう、その頃から物件探しを始めて、このアパートを見つけたって訳です。実家から離れたので当然、バイト先のファミレスもちょっと遠くなってしまったんですけど、まぁ自転車でかっ飛ばせば30分くらいの距離だし、慣れてる所の方が良いですからね。店長にお願いして当初の予定通り、卒業後もバイトを続けさせてもらえるようにお願いしました」

「新生活に向けて、着々と準備を進めて行ったんですね」

「ええ。でも、学校に行ってバイトもしながらでしたからねー。あの時期はホント、すごく目まぐるしい日々だったな。あっという間に卒業式を迎えて、その数日後から、晴れて一人暮らしがスタートですよ。すでに出版社から受け取っていた賞金30万円は、引っ越しの費用やアパートの敷金礼金を払い、生活必需品を揃えたりしていたら、瞬く間に消えてしまいました」

「ですよねー!」


オレは力強く同意した。

自分自身、つい最近同じ経験をしたばかりだから。


「でも、さっき言ったようにある程度の貯えがありましたから。それを切り崩しつつ、3月から出版社の仕事が入り始めたのでそのギャラと、ファミレスのバイト代で何とか食い繋いでいました」


そこであずまさんは話続けて酷使した喉を潤すように、コーヒーを一口ゴクリと飲んだあと、続けた。


「時たまランダムにレギュラー以外の仕事もこなしてましたしね。その出版社が発行している別の雑誌の、付録の冊子のカットとか、結婚式場のウェルカムボードの作成とか」

「ウェルカムボード?」

「あ、披露宴の会場入口なんかに飾るボードの事で…。そこで誰の披露宴が執り行われるのかっていう案内と、新郎新婦の出席者に向けての『来て下さってありがとう』の感謝の意を兼ねている、手書きの看板の事なんですが」

「へぇー。そうなんですか…」


今まで計3回、友達と従姉の披露宴に出席した事があるけど(兄ちゃんは神社で結婚式のみだったので除外)イマイチ記憶がないなぁ…。


「まぁ、ボードを飾らない人もいるみたいだし、男性はそういう場で細かいところまでチェックしたりしないですからね。知らなくても、無理はないですよ」